国際交流のあたらしい形


淺川 和也

はじめに
 国際教育交換協議会CIEE(カウンシル)日本代表部によれば、海外渡航には「TRAVEL」「STUDY」「WORK」の3つがあるという。新英語教 育研究会(新英研)は1970年代に、ヨーロッパおよび米国への研修旅行をはじめた。また、2000年の札幌大会では韓国からのゲストや留学生らと国際シ ンポジュウムをおこない、2002年の山口大会には韓国英語教師の会(KETG)釜山支部から5名の代表を招いた。当初、国際交流は団体の目的にかなう研 修の機会としての旅行からはじまり、新英研のメンバーが中国で日本語を教えることに従事するなど、実践研究をつみあげる共同プログラムの可能性がでてき た。ここでは、これまでの成果のつみかさねの上に国際交流をとらえるあらたな視点を考えてみたい。

オルタナティブツアーのおこり
 これまでも行政などによって国際交流事業がおこなわれている。また、労働組合をはじめとする諸団体は、国際的な関係を構築しながら、研修旅行を実施して きている。最近では、環境に配慮し、自然を学ぶエコツアーもさかんになってきている。とくに海外協力NGOは自分たちの活動現場を訪問するという形でスタ ディツアーを実施している。不特定多数の人々に参加をよびかける旅行を催行することは旅行業者でないとできないので、会員を対象にしたツアーということに なっている。このようなツアーはオルタナティブなあたらしい旅行の形態である。

スタディツアーの課題
 スタディツアーの現状は、スタディツアー研究会(田中)によれば「NGOなどが企画・運営するオルタナティブツアー(スタディツアー)が増えてきてい る。全国に約400 あるといわれる NGOの半数がスタディツアーを行っており、年間数万が参加しているといわれている」、さらにその特徴は「(1)現地事情や、NGO の活動などを体験学習できる。(2)現地の団体や人々と同じ目の高さで交流できる。(3)参加者自ら、プログラムに参加・協力できる。(4)環境負荷が少 ない」の4点だとする。また、その利点と課題について「スタディツアーは、多くの市民が国境を越え途上国の人々と「顔の見える関係」を作り、効果的な開発 教育として相互理解や継続的な開発協力促進に寄与してきたといえる。一方、文化も経済力も大きく異なる集団が途上国のコミュニティを訪問することは、様々 なインパクトを受入コミュニティに与えるため、事前学習や安全管理など周到な準備と実施体制作りが必要である」と述べている注1。
 スタディツアー研究会は、地球と友に歩む会/LIFE、(株)風の旅行社、SVA、ピナツボ復興むさしのネット(ピナット)、ヒマラヤ保全協会、ラリグ ラス・マイティ・ジャパン、ラオスの子供に絵本を送る会、アフリカ日本協議会、日本赤十字社が参加している。事務局が置かれているLIFEは2002年 に、第6回 インド・スタディツアー、第2回 PRA(参加型地域評価法)研修ツアー、第3回 インドネシア・スタディツアーをおこなった。スタディツアー研究会では、合同で春と夏に参加者への説明会や実態調査、運営のための研修会もおこなってい る。

商品化されるオルタナティブツアー
 海外での国際ボランティア活動の組織には50年以上の歴史がある。TOEFLの日本事務局として、また教員対象の研修プログラムで知られている国際教育 交換協議会CIEE(カウンシル)日本代表部は、国際ボランティアプロジェクトの窓口にもなっている。国際ボランティアは、夏休みに25ヶ国(ドイツ、フ ランス、タイ、メキシコ、トルコ、イタリア、ブルガリア、アメリカ、ポーランド、韓国ほか)からの参加者とともに、福祉活動や、歴史的建造物や遺跡の修 復、環境整備などにワークキャンプで取り組むプログラムである。
 一方、観光旅行業界にあっても、差別化した商品開発、多様なニーズに合う企画を出すことで、しのぎをけずっている。例えば、「地球の歩き方」では海外ボ ランティア・プログラムの部門があり、地球環境保護活動として国立公園職員との交流をはかる「アメリカ国立公園環境保護」12日間、世界文化遺産保護活動 では遺跡の整備作業をおこなう「アンコール遺跡保護」11日間、国際交流では都市スラムや東北部の施設での農作業やホームスティが「東北タイ・ルーイ県メ コン学生寮活動」10日間で組まれている。
 
海外からの招へい
 日本人の観光渡航が自由化(年一人一回限り)されたのは1964年、東京オリンピックの年だ。当時の渡航者は年間1,3万人、現在ではおよそ1800万 人にのぼっている。韓国が海外渡航を自由化したのは1991年である。現在でも、招待状を得て査証を申請しなければ、出国できない国はおおい。
 新英研でも80年代から、ヨーロッパや米国から来日したゲストを囲む機会をつくるなど、交流をしてきているものの、単独で招へいすることはこれまでな かった。2002年に新英研・国際部が後援したPGL(地球語としての平和会議)を機会に、リトアニアやロシアからの来日に際して、査証発給などの実務に 関わったのはよい経験となった。

査証などの問題
 ロシア、NIS諸国からの招へいはとくにきびしく、必ず身元保証人が必要になる。保証人が本人に(実印を押印した)招待状と印鑑証明を送り、日本大使館 または総領事館に出頭し、申請する。申請が受理されると外務省に通報される。外務省から保証人に必要な書類(招聘保証書、入国理由書、滞在日程表、在職証 明書、住民票、戸籍謄本、滞在費支弁説明書、会社の場合登記簿謄本・決算書・会社案内、会議概要、研究計画書、契約書)の提出が求められ、審査によって査 証の発給が決まると、日本大使館または総領事館を経由して申請人に通知されると、本人が出頭して発給を受けるという段取りだ。
 手続きばかりではない。とにかく外国人が日本に来るのは、経済的格差もあり、きわめてたいへんなことなのだ。

公的な支援を
 2002年は日韓国民交流年であり、国際交流基金から、さまざまな民間の交流事業に助成がなされた。新英研の韓国からの招へい事業にも助成を得ることが できた。
 国際交流基金は約200億円の予算規模を持ち(英国のブリティッシュ・カウンシルは954億円あまり)注2、「学術、日本研究から日本語教育、芸術、出 版・映像メディア、スポーツ、生活文化まで幅広い分野で人の交流を基本とした文化交流事業を実施」しているが、このような民間への支援はめずらしいのでは ないかと思われる。
 もっとも、ODAは国防であるという位置づけもあり、8,578億円と巨額である。例えば、国際協力事業団(JICA)の予算は1,640億円である。 教科書にもよく登場する青年海外協力隊(JOCV:Japan Overseas Cooperation Volunteers)はJICAの所轄である。民間への支援としては、郵便貯金による国際ボランティア貯金があるが、予算規模は3.4億円となってい る。

おわりに
 新英研は手づくりで国際交流をすすめている。自分たちが海外に出かけることはたやすくなった、一方、海外から人々を招くにはまだまだ困難が伴う。実践・ 交流をはかるには、やはり、互いに時間と空間を共有し、共同する機会をつくりたい。団体として継続的な交流をするために、財政的な保障をどのようにするか も合わせて模索する時機であろう。

注1:「新しい観光―オルタナティブ・ツーリズムと文化理解 」田中博・(特非NPO)ヒマラヤ保全協会
注2:「文化交流政策と日本の情報化」『各国の情報通信政策と情報産業の動向に関する調査研究』(1997:産業研究所)